2019年4月15日午後6時50分(現地時間)に発生したパリのノートルダム大聖堂の火災も大きな注目を集めましたが、ここでは木造建築の防火性能を高める技術などを紹介します。
木造の建物って『燃えやすい』とか『火災に弱い』と思われています。通常の木造住宅は火災保険の等級で“M構造”“T構造”“H構造”の3つに区分されているうち、H構造となっていて最も火災に弱いという位置づけです。
木造でも通称“ツーバイフォー工法”という枠組壁工法は、「省令準耐火」に該当しますし、木造軸組工法いわゆる在来工法でも「省令準耐火」と認められる住宅を造ることはできます。
「省令準耐火」は火災保険等級の“T構造”に位置づけられます。
木造在来工法で省令準耐火構造の住宅を建てる方法
省令準耐火構造の基準について、実は「建築基準法」の中にはこの名前のつく構造仕様は存在しません。
“省令”と冠(かんむり)が付くだけに、政府のどこかの“省”の大臣が出した命令です。
どこの大臣かというと、厚生労働大臣と国土交通大臣が共同で出した命令で「勤労者財産形成促進法施行令第三十六条第二項及び第三項の基準を定める省令」という名前の省令です。
この省令に基づいて、建築基準法の“準耐火構造”に準ずる仕様を決めています。そしてその仕様によって建てられた建物の構造を省令準耐火構造と言います。
では“省令準耐火構造”の仕様を見ていきましょう。
省令の第1条1項ロの(2)に基準が明記されています。
(i) 外壁及び軒裏が、建築基準法第二条第八号 に規定する防火構造であること。
(ii) 屋根が、建築基準法施行令 (昭和二十五年政令第三百三十八号)第百三十六条の二の二 各号に掲げる技術的基準に適合するものであること。
(iii) 天井及び壁の室内に面する部分が、通常の火災時の加熱に十五分間以上耐える性能を有するものであること。
(iv) (i)から(iii)までに定めるもののほか、住宅の各部分が、防火上支障のない構造であること。
と書かれていますが、もうすこし分かりやすくすると次のようになります。
- 外壁や軒裏は防火構造にして下さい
- 屋根は不燃材料を使用しましょう
- 天井や壁の室内側の面は15分耐火性能が必要です
- その他、防火上の工夫をして下さい
と、このような基準ですが、住宅金融支援機構のホームページには“省令準耐火構造”の仕様を図解したものがあります。
図を見てもよく分からないという方向けに、要点をまとめてみました。
- 外壁・軒裏・屋根
- 法22条区域に建つ住宅の場合は、外壁や軒裏の防火構造と屋根の不燃材料はクリアしていますので、特別なことを考える必要はありません。通常、一般住宅地で使用されている部材で問題ありません。
- 壁の内側
- 15分耐火性能をクリアする材料の構成にします。
石膏ボード(厚さ)12.5mmの1枚貼りか石膏ボード(厚さ)9.5mmを2枚貼りします。間柱は30×105以上の材料、ボードの継ぎ目は45×105以上の材料で縦ピッチを500mm以下にします。 - 上の階がある天井
- 強化石膏ボード(厚さ)12.5mmの1枚貼りの上に断熱材(グラスウール24k、50mmなど)を敷きます。
野縁・野縁受け・吊木は30×38以上または35×35以上を使用し、野縁ピッチは340mm以下、野縁受け・吊木は1,000mm以下にします。強化石膏ボードは高いので、代わりに石膏ボードを使用する場合は、9.5mm厚のボードを2枚貼りして、継ぎ目を一致させなようにする方法もあります。 - 上の階がない天井
- 強化石膏ボード(厚さ)12.5mmの1枚貼りか、又は石膏ボード(厚さ9.5mm)を2枚貼りにして、継ぎ目を一致させないように貼ります。
- ファイアーストッパー
- 壁と床、壁と天井の取り合い部には、火炎が回り込まないようにファイアーストッパーと呼ぶ部材を設置します。枠組壁工法では意識しなくてもファイアーストッパーが作られる壁の作り方になっています。同じような納まりになるように軸組工法でも取り付けます。
コンセントボックスなど防火被膜を貫通する部材には、火炎が回り込まないような措置をとります。
階段も防火被膜を切断するような納まりの場合は、火炎が軸組内に回り込まないような納まりにします。
このように木造軸組工法でも“火に強い建物”にすることは意外と簡単です。
世界で進む木造建築による高層ビル
木造建築というと住宅や神社やお寺というイメージですが、世界では木造の超高層ビル計画があります。
》》》次世代の高層ビルは、木でつくられる──世界各国で進む木造高層建築プロジェクト
日本でも木材を加工によって燃えにくくしたり、耐火被覆を行うことによって高い耐火性能を持たせる研究開発なども行われています。
世界で木造建築が見直されている背景には次のような理由がありそうです。
- CO2排出量の抑制につながる
- 鉄やコンクリートより軽量
- 工期が早くなる
こんな理由に加えて、コスト削減の傾向が見えてきているのも大きな理由です。
木造ビル建築はRC造と比較して、10%程度のコスト高になっているそうですが、今後、実施例が増えていくと、部材の加工コストや設計段階でのコスト削減も可能になるようです。
日本に古来から根付いている木造建築が、世界のスタンダードになる日が来るかもしれません。
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