ここでは、住宅ローン借入残高が半分以上まだ残っている状態で、共有者の一方が自己破産申立てをするときに、自宅をどうしたらよいのかいくつかある選択肢を紹介します。
住宅ローンを抱えている住宅の共有者が破産するときの考え方
共有している住宅と住宅ローンの利用パターンには二つあります。
- 収入合算により共有者が連帯債務者になっている
- 住宅ローンの利用は片方の共有者のみ
住宅ローンの利用パターンから、共有者が自己破産するパターンには次の3つがあることが分かります。
- 連帯債務者の片方が破産する
- 住宅ローンを利用している方が破産する
- 住宅ローンを利用していない方が破産する
この3つのパターンによって置かれる状況が変わるのですが、破産者ではない片方の共有者は、どうしたらよいのかを考えていきます。
共有者の破産する方と破産しない方の二つの立場を説明する都合上、次のように表記します。
- 破産する共有者を破産者
- 破産しない共有者を健在者
住宅ローンの債権者には優先権がある
上の3つのパターンのうち、1番目と2番目の住宅ローンの利用者が破産する場合は、住宅ローンを融資した金融機関に別除権という優先権があることが大きなポイントです。
金融機関は債務者が自己破産手続きを開始すると、抵当権を行使して担保となっている住宅を差押え競売の手続きを開始します。
何故なら、破産手続き開始は期限の利益の喪失の原因となるので、一括弁済を請求し出来ない場合の強制回収の準備に入るからです。
破産手続きが開始されると、債権者は差押等を含めた債権回収・取立て行為は出来ないのですが、抵当権は別になっており、破産手続きよりも優先されるわけです。
3番目のパターンは、住宅ローンを利用していない共有者が破産するので、住宅ローンの抵当権は影響が無く考え方は別になります。
このパターンについては、後段の「住宅ローンを利用していない共有者が破産するとき」をご覧ください。
では、住宅ローンを利用している共有者が破産する場合の話をつづけていきます。
住宅ローンは期限の利益を失い一括弁済を請求される
住宅ローンは債務者が破産するので期限の利益を喪失し、一括弁済を請求されることはすでに説明しました。保証付き融資の場合は代位弁済が実行され、差押え・競売と進んでいきますが、連帯債務の場合の“健在者”にも破産の影響が及びます。
連帯債務の場合は住宅ローンは1本の契約なので、片方が経済的に健在であっても一括弁済の義務が生まれます。
“健在者”が住宅ローンを利用していない場合は、住宅ローンによる抵当権は“破産者”の持分のみに行使されるのですが、やはり影響は“健在者”にも及びます。
ここで、1番目と2番目とでは状況が変わるので、分けて考えてみます。
連帯債務の片方が破産する場合
破産手続きは破産者の財産を処分して、換価した金員によって債権者に公平に分配することが目的です。
住宅ローンの抵当権は、担保物件を売却してローンの弁済に充てるのが目的です。
そしてこれら二つは別々に実行されます。
- 破産者の財産処分を実行するのは破産管財人
- 抵当権を行使するのは住宅ローンの金融機関(抵当権者)
破産管財人が処分する財産は破産者の持分だけですが、抵当権者が権利を行使するのは住宅の全部になるところが問題です。
持分のみの売却は非常に難しく、住宅全体を売却するように提案されることもあります。
健在者が住宅を守る方法として、住宅ローンをすべて返済してしまうことが考えられますが、破産者の持分を売却して換価しようとすることは止められません。
一つだけ方法としてあるのが、破産者の持分を買取ってしまうことなのですが、健在者は①住宅ローンのすべてを返済する資金、②破産者の持分を買取る資金、これらの資金が用意できないと、少なくとも破産者の持分が、最悪は住宅すべてが他人の手に渡ってしまいます。
これらの資金が用意できない場合は、破産管財人と相談しながら、早いうちに任意売却をすることが望ましいことになります。
住宅ローンを利用している片方が破産する場合
破産管財人が処分する財産は破産者の持分だけなのは上のパターンと同じです。
問題は住宅ローンですが、共有者の片方だけが住宅ローンを利用する場合、もう片方の共有者は担保提供者あるいは連帯保証人になるのが通常です。
破産手続き開始により破産者は期限の利益を喪失し、一括弁済の請求を受けるのは上と同様です。
抵当権の行使により差押え・競売開始決定と手続きが進むのと並行して、連帯保証人になっている場合は同様に一括弁済の請求がきます。
抵当権は住宅全体に設定されているので、健在者の持分も差押えを受けます。
破産管財人が任意売却をする範囲は、破産者の持分のみですが、やはり住宅全体の売却を提案されることもあります。
住宅を守る為には、破産者の持分を買取る資金及び住宅ローンの弁済分を用意して、破産管財人と相談することです。
資金の用意ができない場合は、破産管財人と相談しながら、早いうちに任意売却をすることが望ましいことになります。
住宅ローンを利用していない共有者が破産するとき
3番目のパターンです。
破産者は自分の持分に対して住宅ローン以外の抵当権設定が無い条件で考えていきます。
住宅ローンに関しては、破産者は担保提供者もしくは連帯保証人になっている場合がありますが、債務者ではありません。
健常者が約定通り返済をつづけている分には、住宅ローンの関係で差押えなど強制手段を受けることはありません。
破産管財人は破産者の持分を競売又は任意売却しますが、購入する方には利用価値が無く、簡単に売れないだろうと思われがちですが、実は共有持分の買受けだけでも購入者にはメリットがあるのです。
共有持分のみを売却する場合には共有減価により、通常よりも安い価格で取得できる可能性が高くなります。
任意売却でも競売でもどちらも同じですが、転売目的で購入する不動産会社などは、買い受けた後、残りの共有持分つまり健在者の持分も購入しようと働きかけてきます。
これに健在者が応じないとき、共有物分割請求という訴訟による方法があり、住宅全体が裁判所によって競売にかけられる可能性があります。
もし、健在者が破産者の持分を買取る資金を用意することが出来れば、破産管財人と相談して持分を買取ることが望ましいですし、それが難しい場合には住宅全体を任意売却することも選択肢のひとつとなります。
まとめ
こうして見てくると、共有者が破産するときには、住宅を守る有効な手段はあまり無いことが分かります。
ケースによって必要資金に違いがありますが、最低限、破産者の持分を買取る資金が用意できないと、まったく方法は無いと言っていいようです。
住宅を守るためのケース別の必要資金は以下の通りです。
- 連帯債務の片方が破産する場合には住宅ローンのすべてを一括弁済する資金と破産者の持分を買取る為の資金
- 住宅ローンを利用している片方が破産する場合は破産者の住宅ローンを一括弁済する資金と破産者の持分を買取る為の資金
- 住宅ローンを利用していない共有者が破産するときは破産者の持分を買取る為の資金
資金が用意できない場合、早めの任意売却を考えないと競売にまで進んでしまいます。
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