所有者の事情には転勤や住み替えなどがありますが、賃貸契約時にいつまで貸せるかがはっきりしない場合、普通建物賃貸借契約により契約をしています。
ここでは、数年後に転勤により戻ってくるとか、身内が入居することになった等、現在の入居者に退去してもらう為に、賃貸借契約の解除をどのようにすべきかを解説します。
賃貸借契約には「普通建物賃貸借契約」と「定期建物賃貸借契約」の2種類あることは「大家さんの事情によって定期建物賃貸借契約を勧める理由」で解説しました。
「普通建物賃貸借契約」では、賃貸人からの契約解除は簡単にはできないことをまず頭に入れておきましょう。
「普通建物賃貸借契約」における契約解除について
「普通建物賃貸借契約」では、賃貸人からの契約解除については、借地借家法第28条により正当な事由があると認められる場合でなければ、解約の申出はできません。
賃貸人からの解除について賃貸借契約書に記載があるケースもあります。その場合一般的には、6ヶ月前までに申出とされていることが多いですが、この場合も“正当な事由”が必要です。
では正当な事由とはどのようなものでしょうか。
契約解除可能な正当な事由
残念ながら100%認められる正当な事由というものはありません。
唯一あるとすると、建築基準法第10条に「保安上危険な建築物等に対する措置」という条文があり、ここには次のような文言があります。
建築物の敷地、構造又は建築設備について、損傷、腐食その他の劣化が進み、そのまま放置すれば著しく保安上危険となり、又は著しく衛生上有害となるおそれがあると認める場合においては、当該建築物又はその敷地の所有者、管理者又は占有者に対して、相当の猶予期限を付けて、当該建築物の除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用中止、使用制限その他保安上又は衛生上必要な措置をとることを勧告することができる。
このような勧告を受けた場合、建物の除却などなんらかの工事が必要となり、借家人がいた場合にはとても生活していられる状態ではないので、契約解除は止むを得ないことになりますが、現実にこのようなことは極めて珍しく、「普通建物賃貸借契約」では、ほとんどの場合、賃貸人からの解約に対しては“立退料”の支払いが必要になるのが実態です。
借地借家法第28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)に、立退料についての記述があることがそのことを示しています。
建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
契約解除の手順
契約解除するには“立退料”が必要になることを頭に入れておいて、実際に契約中の賃貸借契約を如何に解除するのかについて、手順を解説していきます。
ここからは実際に行った方法にもとづいて説明していきます。
- 契約解除通知の前の“事前説明”
- 契約解除の申出は6ヶ月前に行なわなければなりません。契約解除して退去してほしい事情が発生した場合は、すみやかに入居者に事情を説明します。
まず、早く伝えることが肝心です。退去してほしい時期が1年後でもかまいません、とにかく契約解除することになるという事情を出来るだけ早く伝えます。
この時は、訪問して口頭での説明でもいいですし、タイミングが取れず面会できない場合は手紙にします。
説明する要点は次の4点です。- 契約解除して退去してほしい事情とその退去期限希望日
- 希望する退去期限日の6ヶ月前までに内容証明郵便で“契約解除通知”を送付する予定である
- 退去にあたって希望する条件を“契約解除通知”到着までに考えてほしい
- “契約解除通知”到着後にすみやかに協議を開始したい
- 契約解除通知を内容証明郵便で送付する
- 事前に説明していたことを法律上も有効な意思表示であること示す為、内容証明郵便で送付します。
一般的に内容証明郵便が送られてくると、受取った方はいい思いはしませんし驚くこともあります。その為に事前説明をしておくと、入居者は心の準備ができているので、それ以降の契約解除に向けての協議がスムースに行きます。 - 内容証明郵便の受取を確認してから電話連絡する
- 内容証明郵便は配達証明付きなので受け取ったことが確認できます。その上で入居者に電話をして契約解除についての協議の為、訪問したい旨の連絡をします。
退去することに同意する可能性が高い場合は、ここである程度判断できますし、逆に簡単には行かず立退料を検討しなければならない可能性も把握できます。 - 契約解除の協議を開始する
- こうして契約解除の協議が始まります。
かなり難航する予想がある場合は、裁判所での解決になることもありますので、協議の内容はしっかり記録していきます。
事前説明の時点で「退去にあたって希望する条件を“契約解除通知”到着までに考えてほしい」ことを伝えていますので、最初の協議の時に借家人の条件を確認します。- 無条件で退去に同意する
- 同等物件のあっせんを依頼する
- 立退料を要求する
- 退去はしない
①、②であれば難しいことではありませんので、時期が来るまでには退去してもらえます。
問題は③や④です。賃貸人が自ら協議を行っているのなら、継続して粘り強く交渉を今後も行っていっていいのですが、管理会社が賃貸人代理の立場で話をしている場合は問題です。
立退料の交渉や退去に応じないということになると、この交渉事は“法律行為”になり、不動産管理会社が行うことは“非弁行為”になる可能性があります。立退料の要求額が賃貸人が予想している金額以内であれば、もめることもなく協議は順調に進むと思いますが、予想外の要求をしているとか、まったく退去の可能性が無い場合には、弁護士に依頼することを考えなければなりません。
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