建築基準法違反問題もさることながら、 “サブリース” を前提としたビジネスモデルにこそ根本的な原因があり、賃貸管理業行政の見直しが必要ではないかと考えてます。
具体的には “サブリースの許可制” を導入してはどうかということです。
年間1,000戸以上の賃貸共同住宅を供給している事業者に対し、品質管理体制や工場での品質管理内容など生産プロセスの調査、工事監理方法や工事監理に係る品質確保など工事監理の実態、施工不良や不良品が生じた場合の対応方針について、国道交通省は調査を行うことを2019年3月25日発表しました。
大手賃貸住宅供給事業者の品質管理の実態調査について
この調査はあくまでも建築工事の実態を調査するもので、サブリースを業とする賃貸管理業者としての行政指導や業務改善等は為されません。
ここでは、サブリース業者を許可制にすべき理由、そしてその背景となるサブリース業者の管理に関する行政の取組、最後に建設請負業者とサブリース業者の立場の違いについて論じ、 “サブリースの許可制” が実現することを望みたいと思います。
サブリース業は宅地建物取引業に組入れ許可制にすべき
今回の被害者は入居者と本来の賃貸人である大家の二者存在します。それに対し国土交通省が実態調査を行うのは、あくまで“建築基準法”に基づくものであり、被害者の救済には何ら寄与しないものです。
実態調査の結果、同様のことが他の業者においても発見されたとして、建築基準法による罰則なり行政指導なり、有効な再発防止策は期待できません。
“手抜き工事” は見つかったから明るみになるわけで、建築基準法そのものが “手抜き工事” を防止できるものではありません。
見つからなければ同様のことは今後も起こるわけです。
根本的な再発防止策はサブリース業者の許可制ではないかと思います。
現在、賃貸業そのものは宅建業法による許可は必要とされていませんし、賃貸管理業も許可は必要なく誰もが参入できる業界です。
誰もが参入できることは、需要を過剰に超えた賃貸物件の供給を引き起こしています。
空き家増加原因の一つに「必要の無い地域に賃貸住宅が建ち過ぎている」ということがあります。相続税対策や年金受給額の減少と受給開始年齢の引上げなど、不動産投資への動機づけが様々な形で行われています。
そのターゲットになるのが、与信力があったり有休土地を所有したりという条件が整う一部の人たちです。
その一部の人たちが “かぼちゃの馬車” のような被害にあっています。
賃貸事業は実は簡単な事業ではありません。
市場調査に始まり、立地特性から決まる住戸タイプの検討や賃料設定は中でも最も重要なポイントです。
低賃料に傾くと入居率は高いが利回りは伸びない、高賃料になると表面利回りは高いが入居率が厳しくなる。適正賃料前後2,000円という微妙な範囲の中で設定しなければなりません。
入居審査も極めて大切です。
- 賃料を延滞する
- 生活ルールを守らない
- 常識外の利用による物件の劣化
などなど、問題が続出することへの対応が大家業の大変なところです。
そんな大変なところをすべて引き取ってくれるのが “サブリース” 。
言葉巧みな営業攻勢に冷静な判断を失い契約してしまうと、待っているのが、10年経過しての賃料見直しです。
“話が違う”と抵抗すると契約解除に大量退去がおきてしまい、経営破たんに追い込まれてしまうのです。
どこかでブレーキを掛けなければ、今後もこのビジネスモデルは続くことでしょう。
サブリース事業にある闇の部分が明るみになった今こそ、効果のある規制が必要だと思います。
サブリース業者に係る行政の取組
平成23年、賃貸住宅管理業者登録制度が始まりました。
目的は「賃貸住宅管理業の健全な発達を図り、もって借主及び貸主の利益の保護を図る」こととされています。
登録は任意であり、登録しない業者が8割以上と言われていますが、そもそも賃貸住宅管理業には免許制度が無く、いわば誰でも業とすることができるものです。
登録対象となる事業者は2種類あります。
- 貸主からの委託により賃貸住宅の管理を行う事業者(一般の賃貸管理業者)
- 賃貸住宅を転貸し、貸主として管理を行う事業者(サブリース業者)
賃貸住宅管理業者登録制度創設以来8年が経過していますが、登録業者の増加や管理をめぐるトラブルの減少を検証しつつ、登録制度の法制化も検討されているようです。
サブリース契約に関する注意喚起
上記の通り「賃貸住宅管理業者登録制度」に登録する業者は少なく、全国的にもサブリースに係るトラブルが生じている状況の中、国土交通省は数回に渡り「サブリースに関するトラブル防止」の注意喚起や通知を発表しています。
- 2016年9月1日 サブリースに関するトラブルの防止に向けて(通知)
- 2018年2月20日 サブリースに関するトラブルの防止に向けて(通知)
- 2018年3月27日、2018年10月26日 アパート等のサブリース契約に関連する注意点等
- 2018年11月30日 「アパート等のサブリース契約で特に覚えておきたいポイント例」
建設請負業者とサブリース業者の立場の違い
レオパレス21で起きたような、広範囲に及ぶ施工不良物件が露見した場合、一般の建設業者であればどのような影響がでるか考えてみると、同社の対応はあまりにもお粗末な感じがしました。
その原因を考えてみると、請負業者とサブリース業者の違いが大きなものだと思えます。
請負業者は工事の品質を重視する
建設業の代表的な会社、例えば、鹿島建設・大成建設・大林組などで今回のような、建築基準法に抵触するような工事の実態が、日本全国あらゆるところで発生したら、公共工事の指名停止処分を受け、民間工事の受注も激減します。おそらく会社の存亡に関わる問題となります。
ゼネコンが社会から信頼され支持されるのは、国際的にも通用する高い技術力と、求められる品質レベルを追究しようとする姿勢です。
時々ゼネコンがニュースになることがありますが、“談合とか不正入札”といった話題であり、全国のあちこちで、建築基準法に抵触する“手抜き工事”を行っていたという不祥事は、これまで聞いたことがありません。
工事請負を主体とする建設会社にとって、施工不良物件が生じることは命取りになります。
サブリース業者は工事の品質よりも営業力を重視する
一方、サブリース業者が自ら建設工事を手掛けるようになると事情はガラリと変わります。
サブリース業者は工事受注が主目的ではなく、管理物件数の増加が大きな目的です。しかも築年数が浅く10年間は稼げる物件です。
もう一度繰り返します、アパート建設の工事を受注するのが目的ではありません。10年間の家賃収入が確実に見込める物件を抱え込むことが目的です。
目的が違うので大手ゼネコンのような、自社が造り出す建築物の品質管理を向上させようとする “自浄作用” が働きません。
むしろ、信用力が低下した中でも管理物件を取得する為の “営業力” を更に強化しようとします。
技術力の向上とかコンプライアンスとかには目もくれようともしないでしょう。
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