2005年の耐震偽装事件に匹敵するほどの影響を、建築行政に与えるのではないかと考えています。建築確認制度は一般の人たちが思うほど厳密なモノではありません。ザル法とも言われる建築基準法の問題点と、このような“事件”が生まれる背景を明らかにしたいと思います。
ザル法と言われる建築基準法の理由
法律は守るのが当たり前と考える人と、法律違反がバレないようにうまく切り抜けようと考える人が、世の中に必ずいます。
建築基準法は、後者の“法律違反がバレないようにうまく切り抜けようと考える人にとっては、すごくやりやすい法律”なのです。
分かりやすい例をご覧いただきます。
上の図の左側は、1階が車庫で2、3階がアパートになっている建物です。
建築基準法では「共同住宅」に分類される用途なのですが、3階建て共同住宅は耐火建築にしなければなりません。
耐火建築にすると普通の木造建築よりもコストアップになります。
ところが、車庫を地下にして2階建てのアパートにすると普通の木造建築でよいので、コストアップを避けることができます。
車庫を地下にすると、すごく使いづらいのですが、車庫の床を少しだけ道路から下げて、建物の周辺の敷地地盤に土を盛ると簡単に2階建ての建物になります。
建物の周辺は盛土されているので、土が崩れたり使いづらいので、建物が完成して検査に合格してから建物周辺の盛土を取り除きます。
盛土が無くなると、どこから見ても3階建ての建物ですが、建築基準法上は“地下1階地上2階”の建物として建築確認が行われ、検査も合格している違法建築が堂々と使用されるようになってしまいます。
今回のレオパレス21の問題アパートは、界壁と外壁の施工方法に問題があったわけですが、外壁は建築基準法第22条に定めている内容とは異なる外壁仕様になっていました。界壁は最早界壁と呼べない状態になっていたわけですが、火災がもしも発生した場合には、短時間で他の住戸に延焼し、大変な事故になってしまう危険性がありました。
要するに建築基準法違反の建物を作っていたわけです。
建築基準法違反が生まれる確認制度と許可制度の違い
建築基準法第6条には、建物を建築するときには、建築計画の内容が建築基準関係規定に適合するものであることを、申請書を提出して建築主事の確認を受けなければならないと定めています。
さらに第7条には、工事を完了したときは、建築主事の検査を申請しなければならないと定めています。
- 建築計画について法的適合性の確認を受けなければならない
- 工事が完了したら検査を受ける申請をしなければならない
とこのように二つの義務を建築主に定めています。
くり返しますが「確認を受ける義務」と「検査を受ける申請の義務」です。
どこにも「審査に合格して許可を受けなければならない」といった表現が無いことに注目しなければなりません。
くどいですが
確認を受けることと、検査を申請することが義務なのです。
それともうひとつ大事なことがあります。
それはこれらの義務は建築主に課されているのですが、実際の申請手続きは確認申請は建築士事務所が、完了検査申請は施工会社が代行してやっているのが実態です。
義務のある建築主がこれらの申請に係ることはありません。
法を遵守しようという意識が働かないのも分かるような気がします。
*違法建築になってしまった原因が「作業の効率化」とか言ってましたが、唖然としてしまいました。
もしもの話ですが
許可制になっていると、建築主にはもう少し遵法精神が生まれ、申請手続きを行う事業者や行政の方にも、厳密に審査を行おうとする意識が生まれるかもしれません。
行政が見逃した耐震偽装
2005年の耐震偽装事件、構造計算書を偽装した被告人は東京地裁の被告人質問で「区役所の確認審査をあっさり通って驚いた」と答えています。
行政に構造計算書の偽装を見抜く能力が無かったのか、時間が無かったのか、その気がなかったのかは分かりませんが、この事件の後に建築確認の厳格化が行われました。
逆に言うと、これまでの審査が甘かったことの証です。
冒頭に上げた「3階建てと2階建てのアパート」の例で言いますと、確認申請時に「地下1階地上2階」で申請した書類を審査する担当者は、「これって、きっと3階建てになるな」と思って審査している可能性もあります。
「3階建てだろう」と思っても、書類上は2階建てになっているので否認することはできないわけです。
このように建築確認という制度には、構造的に脱法行為が行われやすい欠陥があると考えられます。
被告は「偽装は生活のため」と主張しました。
アパートで大きな火災事故が起こる前に、誰のための法律なのかを考えなければならないと思います。
工事監理者の権限を強くする立法化
耐震偽装事件以降、建築行政では様々な法規の改正や仕組みの変更を行いました。
工事監理ガイドラインの策定もその一つでしたが、ガイドラインだけでこれまで機能してこなかった“工事監理”が改善されるとは思えません。
工事監理者は設計図書と現場の状況を照合して、設計図書のとおりに工事が行われているかをチェックする業務です。
この仕事を行うことが出来るのは“建築士”に限定されており、建築士である設計者と同一の場合もあれば、異なる場合もあります。
工事が適正に行われる為には極めて大切な仕事で、建物が設計意図通りに完成するかどうかは工事監理にかかっていると言われます。
建築工事は3つの立場の人たちによって行われる協同作業です。
- 設計者
- 工事監理者
- 工事施工者
この三者は、自分が受け持つポジションを責任を持って仕事をしなければならないのですが、この三者の間には力関係が存在します。
本来は、それぞれの立場でやるべきことをやるのですが、建築業界にある“元請・下請”という関係が、設計者と工事施工者、工事監理者と工事施工者との間で生まれていることがあります。
特に工事監理者は、客観的な立場に立って工事施工者をチェックしなければなりません。しかしそこに“元請・下請”的な力関係があると、施工業者のいいなりに現場が進んでしまうということもあります。
例えば、レオパレス21の事例で言えば、外壁の仕様変更や界壁が天井部分で止まっていたことなど、工事監理者がきちんとしたチェックをしていれば起こり得なかったことです。
工事監理者が設計者や工事施工者に従属するのではなく、独立した立場で職責を果たせるような立法化も必要ではないかと思っています。
工事監理者については下のページもご覧ください。
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